タカギ様がみてる
[3月のライオンchapt.18(単行本01巻・白泉社特集page)]を読んだ(以下ネタバレにご注意)。
今回は事情に依り、盤上技術を中心に感想を述べたい(引用中の齣数は、微細な物を概算して表記している)。
零君の用いた戦法は、P.73・03齣目で
じゃあこちらは1五歩 玉は動かさず いつでも攻めに 出れる形に・・・
と心中呟いているので、棋界で一世を風靡し私も愛用している、四間飛車藤井システム先手版と断定出来る。
藤井システムは対居飛車天守閣美濃囲いにも猛威を振るい衰退に追いやったが、昨今では対居飛車穴熊が主目的として認知されている。
零君も同02齣目で、又天守閣美濃囲いの余地があるにも拘わらず
5三銀 穴熊か? 堅く囲って 長期戦でじっくり という事か・・・
と想定しており、同様の認識らしい。
P.78 04齣目で松永七段が指した△7四歩にP.79 02齣目で▲4八玉と応じ、04齣目△1二香を見て
--1二香!? え?何??やっぱり穴熊なの?
と慌てているが、システムの主眼の01つは「振り飛車が右翼に玉を囲うと、居飛車左翼への攻撃時に流れ弾が当たり易い弱点を居玉(玉は丁度中央)で補う」点にある。
対する居飛車△7四歩は、「振り飛車左翼への急戦を見せて▲4八玉からの玉囲いを誘い、一転して△1二香から居飛車穴熊に組む事で、完成前に先攻されても反撃し易くなる」対システムの基本手筋と言える。
ちょ まっっっ 考えてなかったの?!7四歩対策~~~~~~?!
とこちらが驚きたくなる。
尤も、主人公補正が働いたのか零君の対応策は適切だった。
システムの一環たる、「居飛車穴熊に囲う瞬間に左翼でpointsを稼いで終盤に雪崩れ込み、序盤の▲1五歩と呼応した端攻めで攻略に結び付ける」戦略にそぐうP.79 02齣目▲7五歩で仕掛け、△同歩▲6五歩と一気に角交換も挑んで飛車迄捌きに出た。
△7五同歩▲6五歩△7七角成▲同飛と進み、通常の振り飛車なら居飛車が角交換されて損しているが、居飛車穴熊未完成時の捌き合いに発展するので逆になっている。
松永七段がP.80 07齣目で△3二銀と上がり、零君は▲7五飛△7三歩に▲7七桂と桂馬を活かした大捌きを狙った。
その瞬間のP.81 02齣目で、△2二玉と1一から玉将が出て来た旨描写されている(穴からあたふたとクマー熊らしき生物が飛び出して来る表現で、或る意味滑稽だ)。
居飛車がシステムでの左or右翼急戦に対抗する際、2二の玉を3二に避けて1一の穴を放棄する筋や(対左翼)、3二銀と左美濃を完成させて同じく無視する方策(対右翼)は基本だが、玉銀共に行うと振り飛車が左翼で捌きつつある状況もあり不利は免れない。
零君も、利敵行為にも拘わらず
つ・・・ 辛い・・・なんだか とっても 辛いん ですけど・・・
と04齣目で困惑しており、「今後悪手を指される度にこの時の回想に囚われるのだろう。心中でpoemを吟じている内に時間切れしなければいいが」と心配になる。
零君の必勝と思しきP.82 04齣目で、「▲7七角と王手飛車を掛けると、△5五角▲9九角△3六桂と一矢報いられて紛れるが未だ優勢」の旨を述懐で説明している。
以下、▲1八玉△4八桂成▲5五角△同歩に▲4八金と成桂を取り返すと、△3九角と肉薄されて怪しい。
尤もこの局面で言えば、△5五同歩に▲5三との攻め合いで、1五歩型が退路となって振り飛車玉に詰めろが掛からず、△同金にも▲2三成銀△同銀▲4一飛成で手勝ちとなる。
実はこの齣で、04枚目の香車が欠損している。居飛車の持ち駒に香車があれば、▲1八玉に△1六香が痛打となり大いに期待が持てる。
5九の駒も香車か桂馬か判りにくいが、字体から成桂(桂馬)と思われる。
単行本化の暁には、入れ替わっている盤面の先後表記を直しつつ、居飛車側持ち駒に香車が追加されるだろう。
単行本派の皆様には、是非ともご安心頂きたい。
P.84 05齣目で、
きし:きりやま LV17 いのちだいじに → ガンガンいこうぜ
というRPGのcommand選択じみた描写で、非情を発揮した場面になっている。
状態statesや自分探し経験値への詮索はさて置き、零君がRPGを覚えたとすれば、gameの世界に飲み込まれた義弟・幸田歩(あゆむ)をせめて慰める為に付き合ったかも知れない。
RPG風味繋がりで言えば、今話題の韓流fantasy時代劇[太王四神記(テワンサシンギ・@nifty公式)]の主人公・広開土(大)王談徳(クァンゲト[デ]ワン・タムドク)も争いを嫌い宿命に抗い、ささやかな幸福を求めるcharacterとして描かれている。
何れも作中&現世を問わず女性に人気沸騰にせよ、談徳の場合は約10年所か前世たる桓雄(ファヌン)から2,000年程引き摺っている辺り、(零君とでさえ)器が違うという所だろう。
局面に戻り、厳密には▲7七角△5五角▲同角△同歩を経て▲5三と△同金▲2三香成(香車を逆用される心配がない)△同銀▲4一龍と寄せに出れば、▲7七角を打って松永七段を糠喜びさせつつ攻防の△5五角を封じて、悪逆暴戻堅実無比な収束となる。
日頃鬱系回想scenesで鍛えた成果を具体的な描写で試してみたかったが、P.85 01駒目では
そして15分後---
と流してあり、惜しまれてならない。
「東京将棋会館の04Fから、観戦記者の(故)能智映(のうち・あきら)氏が脳溢血の発作で真下の踊り場に転落し、後に亡くなった」等引き合いに出せる事柄はあるが(奨励会員時代に目撃して仰天した)、ひとまず止めて置きたい。
私の場合、今後の[C01級順位戦(順位戦棋譜速報[共催・有料・登録制])]も死闘が予想されるが、本編を読んで抱いた想いを胸に秘めて戦い抜く旨宣誓して、今回の結びとする(08/10 23:59記載)。
本日-「●(敗北)」。[研修会(研修会について)]でも縁深い石井直樹(なおき)三段を拙宅に招いてVSの予定だったが、体調不良のため断らせて貰い、二海堂晴信君のmodelたる(故)村山聖(さとし)九段を偲びつつひっそりと暮らす。
こよいは、ここまでにいたしとうございます(by【大井夫人@武田信玄】終話挨拶依り)。
追記
第17話及び、本話冒頭で零君が読者に披瀝した予想は見事に外れた訳だが、「冬の都市型雷雨も屋内で遭遇すれば、奇怪な見物となり得る」といった所だろう。
私にしても対局当日に当weblogで戦型予想を開陳しているが、幾つか可能性を提示しており比較は無理があるだろう(08/05[立秋前のけじめ]では、回りくどい表現乍ら「相振飛車はない」旨予想した物の、相振飛車に進展する前に仕掛けた結果外れずに済んだ)。
棋士としては、激戦や苦闘の予想は外れるに越した事はない。
方や気楽な展開なり楽勝を予測したとしても、外れる物として臨まねばならない。
後者の場合オサレな独語ならともかく、weblogでの披露は流石に不適切にせよ。
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コメント
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先に中身の濃いcommentsを頂きましたが、本entryで再度ご送付頂いた際等にお返事申し上げる積もりでした。
gagとしての対局は03話・VS松本一砂(いっさ)五段で描かれている訳ですが、今回は大掛かりな前振りと技術解説が眼を惹きます。藤井システム?を扱って頂いた点は、涙が出る程嬉しく思いました。
監修者たる先崎学八段は、羽海野チカ先生の求めに応じて緻密な技術提供をなさっているでしょうが、事実上の不定期連載でもあり時に連携を欠いておいでかも知れません。
PC系情報端末や、将来性に物を言わせた棋士との情報交流に縁遠い零君ですが、現実の棋界と一線を画した一般的戦略なり零君将棋なりを構築する上で、意義が生じるでしょうか。
娯楽toolとしてのPCすらない零君と、健康以外は何もかも有する二海堂君はつくづく好対照を成しています。来期はC01順位戦でもそうあって欲しい物です。
「遠雷03(近雷?)」がないと、確かに座りが悪そうです。川本家で言えば、「位牌も話柄も存在しない御仁」の初登場を想起します。
問題は思わせ振りを連発し、掲載誌の伝統と格式?にも乗っ取って珠のお肌迄曝した香子嬢の面子。殊に依ると、「二海堂君と香子嬢と松永七段が共謀していた」位の豪雷が轟くやも知れません。
「寝具を神田川に放り出されたら、どうしてやろうかと思っていたぞ」『嘘は言ってないわよ。匿名掲示板用語でいう所の「必死の形相・・・」なんだから』【こう見えても(故)○×八段が創始した研究会に参加させて頂き、闘志や執念も含めてご薫陶を受けた身じゃ。○×先生が化けて出ても文句は言えんぞっっ】・・・
安らぎが必要なのは、私でしたかも(苦笑)。
投稿: 窪田義行 | 2008年8月11日 (月曜日) 午後 08時03分
盤面のご解説どうもありがとうございます。ご指摘のところはそれこそ「将棋監修」たる先崎学八段の責の及ぶところであると思われるのですが、「ハチワンダイバー」がある意味将棋オタク的に盤面のリアリズムを追求するほどには、「3月のライオン」は意味を持たせていないということでしょうか。いずれにせよ、折角の「将棋監修」者が存在する以上、盤面上で瑕疵を持つべきではないでしょうね。あるいは、作品内では一言も「藤井システム」という言葉が発せられていないことから見ても、この十数年、あるいはさらにそれ以前の将棋史全体がこの作品の盤面の中では、あらためて「新しく」取り上げられていくということでしょうか。
さらにいえば、同「システム」の創始者たる藤井「総帥」自らが「振り飛車党」を脱退?解散?されようとしているというのが現在2008年夏のプロ棋士の方々にとってのリアリズムなのかもしれませんが、零くんの部屋にはテレビはもちろんパソコンもないようで、まず最新の棋譜をダウンロードして……、というような私が伝え知るところの現代若手棋士のリアリズムと異なる研究方法でC1まで上り詰めてきたようだというのも、異例であるのでしょうね。そのC1に、来期は二海堂くんがC2「一期抜け」の快挙(もしかしたら現代においては零くんのような「中学生棋士」よりもむしろ稀少でしょうか。いずれにせよ「将来の名人候補」が増えたとみなされうるような出来事ですか)を果たして勇躍してくるのでしょうか。
それ以前に、遠雷その2と題された今号に続いて、一転して「近雷」とも呼びうるような衝撃のその3があるのか、あるいは夏の終わりにふさわしい?(作品上の季節は冬ですが)川本家の安らぎが零くんを包むのか、刮目して待つことにいたします。
投稿: KS | 2008年8月11日 (月曜日) 午後 05時27分